サイババの弟子を名乗る占い師
まだ時間があったので彼らの知り合いのホテルでお茶することにする。長期滞在の外国人が多かった。そこに昨日バーで会ったシヴァの友人がおり、「実は今、この近くにヒマラヤ奥地で修行したすごいグル(霊的指導者である導師の意)が滞在している。しかも一年で50日間だけしか山を下ってこない。お前は運がいい。彼はサイババの弟子で人の前世・来世を見る事ができ、今生での様々なアドバイスをしてくれる。会いたくないか」。
サイババの弟子とまで言われれば興味がムクムクと沸いてくる。仙人のような人物を勝手に想像し会いに行くことにする。これがインド最大の後悔となる。サイクルリクシャーで5ルピーのなぜかショッピングセンター2階にグルはいた。入口には『ようこそ、占いの館へ』と書いてある。あやしい。
先客がおり、30分待つ。「どうぞお入りください」と通された小さな部屋の奥には、ヒゲがビローンと長いグルが。以外と若い。「どこから来た?」と聞かれ日本だと答えると、グルは知っている限りの日本語を語りだす。
壁に貼ってあるサイババの写真を指し知っているかと聞いてくる。サイババの写真はあったが一緒に写っているものは一枚もない。アメリカの女優からという手紙も写真と一緒に貼ってあり「彼女は私のおかげでハッピーになった」と豪語する。が見たこともない女優だ。ますますあやしい。
「アイアムウラナイシ、ユーノー?」名前と生年月日と生まれた時間をココに記入せよとの事で、それと手相で全てを見るらしい。なんだ細木数子とかと同じじゃねーか!
一式記入すると「私はコンピューターなぞ使わない」と、アンチョコ本を取り出し、何やら書き込む。「でけた。ではいくぞよ」ここからその一部始終。なぜか急に声の調子が変わりスゲー早口に。
グル:「占いにーよりますとー、あなたは水瓶座でーす。がーしかしーインド式にはちと違い、あなたは魚座デース」「そして守護神はクリシュナでーす」
おいおい
グル:「だからブッダばかり信じてないでクリシュナを崇めなさーい」
グル:「占いにーよりますとー、あなたの家族はそれほど多くない、2人か3人でしょう」
いや5人だけど
グル:「チッチッチッ、両親はいれません」
あんたファミリーゆうたやんけ!
グル:「両親を除くと3にんですねー。あたりですねー、私3人言いましたねー」
...
グル:「占いにーよりますとー、あなたは独身ですねー」
さっきの質問でわかるだろ、そんなこと。
グル:「占いにーよりますとー、あなたは結婚よりもー、ロマンスを求めるタイプですねー」
そりゃ32歳で独身ならそう考えるよな
グル:「占いにーよりますとーあなたはおなかと腰があまりよくないですねー」
そうでもないですが…
グル:「占いにーよりますとーあなたの人生の絶頂期は82歳からでーす」
待てるかっつーの。
グル:「手を出してくださーい。男は右手で女は左手でーす」
右手を出すと手相を見始める
グル:「手相にーよりますとー、あなたは結婚で苦労しまーす」
グル:「手相にーよりますとーあなたは酒飲みすぎるとバカになりまーす」
グル:「手相にーよりますとーあなたは肉を食べてはいけませーん」
グル:「日曜日は酒も肉も女も断って、クリシュナに祈ってすごしなさーい」
とのありがたいご指摘の数々。そして
グル:「でも心配はいりませーん。あなたの人生、健康、結婚がうまくいくように、私のパワーを注入したお守りをあげまーす。欲しいですか?」
こいつにそんなパワーなぞあるとは思えないが、もらえるものはもらっておこう。
グル:「では、その前に占い料払ってくださーい。50ドル」
おい、料金決まってるのかよ、しかも50ドルだとー!!俺はお布施って聞いてたぞ。
グル:「ドルがなければルピー、円でもオーケーでーす。VISAとマスターも使えまーす」
カードも使えんのかよ。
グル:「何なら下でキャッシングもできまーす」
ドシェー!!ふざけんな、そんなに払えるか!!とすったもんだになる。
「これは誰も同じでーす。例外はありませーん。200ルピーあると山で修行している私の弟子が3人食べられまーす。このお金は私のものではなくて彼らためのお金なのでーす」そこまで言われしぶしぶ払う。歌舞伎町にもない新手の商法だ。
「ではおはらいと、お守りをあげまーす」怪しげな呪文を唱え、香油を手足に塗られ、顔や背中を孔雀の羽でバシバシされる。「今からパワーを注入しまーす。ふぉ~~~。フンダマカ~レロレロ~~ウリャ~。ウォォーォー、ハァァァー、デリャー」と気合いを込めた、明らかに何かの部品であろうと思われる金属片を渡される。「これを肌身離さず持っていなさーい、クリシュナのご加護があなたをすばらしい運命に導いてくれるでしょう。だが、誰にもこのお守りを見せてはいけませーん」
そして、手首にミサンガのようなヒモをくるくる巻かれ「これはあなたが結婚するまで外してはいけませーん。人に「何じゃそりゃ」、と聞かれても理由を言ってはいけませーん」おいおい、そりゃ厳しいだろ。こんなハデハデな紐をぐるぐる巻きにしといて。
「これであなたの人生はハッピー、ノープロブレムでーす」本当かよ!「では、お守り代くださーい」なにーー!さっき50ドル払っただろうが!「あなたの気持ちでオーケーです」が、気持ちと言われ100ルピーを出すと、しばらくグルはフリーズし「何ですか・コ・レ・は」「お守りだからあんた、占い代より高いに決まってるでしょーが」とやにわに営業トークに切り替わる。
またしてもさんざん言い合いの末、彼は自分のウイークポイントである「私のお金ではない。山にいる弟子たちの為だ」という一点トークで譲らず敗北。プラス2500ルピー支払うハメに。その後グルは「どこのホテルに泊まるのか」と聞いてくるので「これからシュラバスティーに行き2日後にまたバラナシに帰ってくる」と言うと「ホテルは決めてあるのか」と聞くので既にディポジットを入れてあったホテルの予約カードを見せると「おー、このホテルはインチキでーすサギですサギ、わかる?」と自分の事は棚に上げて日本語でサギ呼ばわりする。そして「このビルの上にホテルがありまーす。一泊200ルピーでオーケーだから、そこで泊まりなさーい」おいおい、今度は宿泊の斡旋かよ!!
ということで100ドル出してもこの新手の商法でぼったくられたい人は上記住所まで。年に50日しかバラナシにいないという事ですが、いつ行ってもいることでしょう。ショッピングセンターに。
そんなこんなで時間を過ごし、そろそろ行くことにする。バラナシ駅でヴィーノは「向こうではほとんど英語が通じないから声かけられても絶対ついていったらいけないよ」「駅に着いたらスリーピングルームがあるから朝までそこにいて、明るくなったら乗り換えるんだよ」と、とても心配していた。ホームでバナナと水を買い列車を待つ。
車両にはパソコンで出力したような乗客名簿が貼ってあり、自分の名前をチェック。各車両はセパレートのため、行き来できず、間違うと席がなくなるため慎重にならざるを得ない。逆ギレおやじがどう入力したのか、デタラメな名前になっており、探すのに苦労する。シヴァ達とはバラナシに戻る前に電話することにして列車に乗り込む。