映画見るのに一苦労
祭りの余韻が残っているのか、夜中に騒ぎ声で何度も目を覚ます。宿泊客もうるさいのがいて、早朝に起きた。シャワーを浴びて通りへ出る。驚いたことにあれだけ装飾されていた通りは元に戻っており、掃除されていた。恐るべしシーク教徒。
ホテル向かいのレストランで朝食をとり、映画を見に行くことにする。看板があまりにも魅力的なインドのスプラッター映画。昨日ここに着いた時に、その看板を発見し、絶対に見ようと思っていたのである。映画館前にいた人に聞くと、英語版は10時から、ヒンズー版は12:30からという事で、10時までの間、街中をぶらぶら歩き時間をつぶす。
10分前に映画館へ向かうと通常の席とバルコニー席というのがあり、通常15ルピー、バルコニーは25ルピーとの事。やっぱり映画は2階真ん中でしょう。ということでバルコニーへ。が、広いバルコニー席には自分以外の客は一人もおらず。下を覗いてみると5列目くらいからびっしり座っている。しまった自分も下にすればよかった。
そして上映時間。いきなりプールの中で若い金髪男女が絡み合うというおよそスプラッター映画とは思えないオープニング。インド映画もなかなか激しいのぉ。観客もヒューヒューと盛り上がる。物語はその後、倦怠期を迎えた夫婦の元へ妻の友人が訪ねてくる、これが美人。なぜか夜のプールで裸になって踊り、それを友人の旦那が窓から見てしまう...ん、ここからどういう展開になっていくのかと考える。そういえば、英語の吹き替え版にしては全て英語で話している。そしてここまで血みどろさを一切感じさせないこの展開。
ロビーに下りて聞いてみると、「じぇんじぇん違うがねあんた、いま上映中のは別の映画だがね」。何とイングリッシュムービーというのはヒンズースプラッターの英語訳版ではなく、イギリスの映画という意味だったのである。たしかに掲示板をよく見ると違うセクシー映画のポスターが貼ってある。「間違えてしまったので、この次のヒンズー映画にチケット交換してくれ」と交渉するが「無理言ったらいかんがや」とにべもなく断られる。
仕方なく、コンノートプレイスまでサイクルリクシャーで行き、街をぶらつく。そのあたりにいたオートリクシャーの兄ちゃん2人組が話しかけてきた。が、こちらも今日帰るし、対応にももう馴れていたので軽く話をする。
「祭りがあったから、この近くでセールやってるぞ」と言われるがもう金がない。「だからブラついているだけだ」というと「俺たちもどうせヒマだから、このあたりを案内してやるよ」との事。インドでタダなどということは、シーク教徒のお祭り位のものなので、「タダでなくていいから、行きたい所まで連れて行ってくれればちゃんと金払うよ」すると「君の最後のデリーをいい思い出にしてもらいんだ」などと泣かせる文句。よっしゃ、では言葉に甘えるぜ!まだ一ヶ所行ってみたいところがあったので、そこに行ってくれと伝えると「スマン、そこは俺た行けないんだ、オールドデリーだから」とどんどん走る。そして着いたのはみやげもの屋。ブルータス、お前もか!
そろそろ映画の上映時間だ。ヒンズースプラッターを見ようと思っていたが、歩いている途中で、さらに魅力的なポスターを発見してしまう。ヒンズー版ダイハード。よく見ると主人公らしき人物の顔から流れる血は、絵の具で上から描き加えてある。うーん、インドを感じる。思わずこのバイオレンスアクション映画を見たくなってしまい、その映画館に向かう。
入口と思われる暗い階段前から入ろうとすると、そこにいた2人組からチケットは持っているかと聞かれる。どこで買えばいいか尋ねると「ここでいい。まだ5分前に始まったばかりだ」との事。オープニングの盛り上がりを体験したかった、などと思いながら20ルピーを差し出すと、「もう満席でバルコニー席しか空いていないから50ルピーだ」などとぬかす。
午前中の映画館でバルコニー席は25ルピーだったので、「いや、バルコニーは25ルピーのはずだ」と切り返すと、「チッ」という顔をして、行けという仕草をする。何だコイツらと思いながら、その場所を出て前の道路を歩くと、なんと、正規のチケット売場があるではないか。さっきの所は入口ではなかったようである。午前中に間違った映画を見たおかげで騙されずに済んだが、全く油断ならない。
結局、一階席で現地人に紛れて見ることに。すごい人だ。内容は、自らの過ちで妻を死なせてしまったインチキブルースウィリスが、誘拐された首相候補の娘を悪の手から救い出すという、正にバイオレンスアクション。娘の回想シーンではなぜかオールキャストのインドダンス。
主人公はどてっ腹をショットガンで撃たれても3日で立ち直る強靭な肉体を持ち、敵を殴り飛ばし投げ飛ばす。その際の効果音がこれまたすごい「ドバシャ」「ボスッ」と香港カンフー映画もびっくりだ。殴り合いのシーンでは観客はピューピューと大騒ぎ。フィルムのつなぎ部分で映像が途切れると、ものすごいブーイングとなり、映画よりもそっちの方が笑えた。