バラナシの純愛男
ロビーに出るとシヴァとヴィーノが外で待っていた。熱心である。早速ガンガーの日の出を見に行くことにする。
ガンジス河沿いに到着し、昨日からのボートフィーが気になっていたので、花紀京をつかまえて金額を聞いてみる。何と昨日とあわせて150ドルだとぬかしやがる「何だと、コノヤロー」。ルピーでなく、いきなりドルかよ。紀京は彼と交渉してくれと近くにいたガタイのいい男を指差す。
その男が言うには、昨日乗っていたボートが通常は10人乗りで、それを一人で貸し切り状態で使用したからこの金額だと言う。が、そっちが勝手に乗せたんじゃねーか、デカいもちっこいもあるかっつーの。と主張し1時間あたりいくらにするかということで交渉する。合計8時間貸しきり料金、向こうの言い値は時間当たり500ルピー、こちらの言い値60ルピー。結局合計2500ルピーで手を打つ。痛い出費である。とりあえず乗れということで、夜明けのガンガーへ繰り出す。
昨日トゥントゥンが「明日も俺が漕いでやるぜ、チップはなしでいいからな」と言っていたのだが、値切ったからか、今日の漕ぎ手はその男一人。名前はパプー。さっきまではタフな交渉相手だったが、交渉が終わればフレンドリーなもので、いろいろお互いの身の上話になる。
インドでは結婚してたくさんの子供をつくるのが幸せなことだと信じられており、男は働き家族を養い、女は専業主婦である。恋愛はあるものの、女は結婚まで操を守り通すのが普通だそうである。一般的には。そんなインド人においてパプーは結婚したくないそうで、このあたりはトゥントゥンと同じである(ちなみにパプーはトゥントゥンの従兄弟)が、その理由が違う。彼はある一人の女性を愛し続けていたのである。そしてその女性は日本人と(千葉県在住)
それは7年前、彼がまだ25歳だった頃、その女性はインドにやって来た。当時彼女は21歳。多分大学の卒業旅行だったのだろう、そしてこのバラナシの地で2人は出会う。彼女はリッチ(現地の感覚からすると)で食事も何かする時も全て彼女の支払い、宿泊していたホテルの入口で「彼は入れません」と言われた時に「私の友達なのよ!」と言って部屋にも連れて行ってくれたそうである。何日か一緒に行動するうちに、パプーは彼女のやさしさに恋心を抱いた。そして、彼女が日本に帰る日、告白したのである。「僕は君の事が好きだ。君を愛している」。が彼女は「私もあなたのことを大切な友達として好きよ」。とパプーの恋は終わったのであった。
お互いの住所を交換し、彼女は帰国した。その後、パプーは何度も彼女からの手紙に書かれた「来年はまたインドに行くわ」という言葉を信じて彼女がバラナシにやって来るのを7年間待ち続けているのだった。その間に、何人かのインドの女性から求婚されたそうだが、本当に愛しているのは彼女だと、全て断ったそうである。「彼女が自分のことを愛してくれていないのはわかっているけど、もう一度会いたい。この話は2人の秘密にしておいてくれ」と純愛を貫くのであった。