列車は走るよバラナシへ

列車は夜8時半発の夜行寝台だったのだが、駅に着いたのが3時半。待合に5時間もある。ジョギンダから「駅にウェイティングルームというのがあるから、そこで待ってろ。タダだ。外には出るな。ここはデインジャラスだ。」とありがたい忠告を受けていたため、しばらくはおとなしくしている。

ホームは結構大きく、プラットホームが3つ。しかもそれぞれ広い。横幅は新幹線のホームの倍くらいあり、長さは新幹線のホームよりも長い。野良犬も走る。列車が止まるとチャーイや屋台の食べ物などを売る声があちこちで聞こえる。スシ詰めの列車内から乗客が手を出して買っている。うーん、インドを感じる。

ウェイティングルームにはばあさんが一人居て、乗客が入れ替わり立ち代わりしているのにそのばあさんはずっと居る。駅の管理係の人か。ばあさんに「あんた日本人かね」と尋ねられ「ここに車両名と時間書きんさい」と紙を渡される。ばあさんに従い列車の時刻車両を記入すると「わたしゃココのボスじゃよ。列車の時間来たら教えてあげるからバグシーシじゃ」と手を出してくる。それ書く前に言えよ。別に何もサービスを受けていないので「列車が出る前に渡す」と保留にしておく。

3時間経って腹が減ってきたし、退屈だったので駅の周りをブラブラする。素焼きのカップでチャーイを飲ませる屋台があったので買って飲む、一杯3ルピー。甘いが美味い。そのカップをどうすればいいのかわからずウロウロしていたが、みんな線路の中に捨てていた。

そして気になる屋台を発見。3人の若者がボールに入ったぬかみそみたいなのをスプーンですくって揚げたから揚げみたいなものを売っていた。「こりゃ何じゃ」と聞くとひとつ食ってみろと1個くれる。中華料理のもち団子に近い味。うまーい。これで屋台魂に火がついてしまいその辺にある屋台でサモサ、プーリー等を食いまくる。どれも美味い。毎日コレでもOKなくらいだ。カレールーを入れる皿もサモサを乗せる皿も葉っぱでできており、食い終わるとみんなそのあたりに捨てていた。そしてその葉っぱををヤギや牛が食っていた。素晴らしき自然のリサイクルシステムである。でもペットボトルはそのまま捨てずにリサイクルしろよ。

ポーターじじいと自称ボスばばあ

そんなこんなで出発の時間となる。ウェイティングルームの自称ボスは俺が勝手に出て行かないように入口前で待機。この時間、既に俺以外の客はおらず、ボスもそろそろ帰りたいようで、バグシーシプレッシャーをかけてくる。

別に何をしてもらったわけでもないのだがバグシーシなしでは諦めてくれそうもないので、仕方なく10ルピー渡す。そしてポーターのじじいが「出発の時間だべ」と迎えにきた。ジョギンダから「荷物を席まで運び終わったら、チップを渡せ」と聞いていたのだが、列車に乗る前に手渡す。すると今まで荷物を持たせるのが気の毒なくらいだったじじいはにわかにホームに入ってきた列車と一緒にピューと走りだす。おい、待ってくれよ。

俺の車両はA1だったのだが、A1車両は2人の前を通り過ぎていったらしく、じじいは列車の乗客に「この車両はA1か」と叫んで聞いているのである。あんた、意味ないじゃん。

インドの列車は連結部分で車両が別れているので違う車両に乗ってしまうと悲劇を生むことになる。しかもこの列車はバラナシまでの約500キロの間に2回しか停車しない特急である。なんとか自分の車両に乗り込むが、全席満員御礼状態。俺の席がない。車両内を行ったり来たりするうちに、じじいが「ここに間違いねぇズラ」と指したベッドにはカルザイ大統領似のおっさんが高いびきで寝ているではないか。

以下ヒンズー語の会話
ポーターじじい(以下P)「ちょっと、あんた。ここはあんたのベッドじゃないズラ」
カルザイ(以下K)「おお、わしのベッドではなかったか、ではわしのベッドはいずこ」
P「チケット見せなせ。…あんたこの上ズラ」

が、その上では佐藤蛾次郎似の男が高いびき。PとKに揺り起こされる。蛾次郎は向かいのベッドだったらしく、そこには大きな荷物が置いてあった。蛾次郎は自分のベッドの荷物をどかすため周りの客をたたき起こす。迷惑な話である。カルザイは上のベッドで既に爆睡。Pは下のベッドに「ヒッヒッヒッ」と荷物を置き、「若いの、バグシーシじゃよ、バグシーシ」と手を出してくる。さっき50ルピー渡しただろが。ジョギンダが席についたら渡せと言っていた訳がよくわかった。

じじいも去り列車出発。これで後は寝るだけだ。が、ここでまたもや問題発生。下のベッドというのは進行方向に向き合ったイスの背もたれをパタンと倒したものだったが、その下にカルザイのでかい荷物が置いてあるためベッドの中央部が膨らんでおり、いわゆるエビ反り状態になるのである。これで朝まではキツイでしょう、ちょっと。ということでカルザイに「大統領、お荷物を移動していただけますでしょうか」と言うと、「では、そなたは上で寝よ」との仰せだったので、入れ替わり、大統領は下でエビ反る。この車両の注目の的になりつつ寝る。

目覚めればバラナシだ。

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